2020年度理事長所信

はじめに

私は、障害福祉サービスを主とした社会福祉事業に従事しており、過去のいくつかのケースワークの中で、貧困や孤立、虐待、ゴミ屋敷など様々な地域課題や今日的な諸問題と直面してきました。他にも超高齢社会や生産年齢人口の減少、社会保障費の急増、自治体機能の維持困難など現代日本が抱えている多くの諸問題は私たちが暮らす天草地域においても重層的に顕在化しており、若者の流出による地域経済の担い手減少などは更に深刻な状況として生起しています。この過酷な現実と先行き不透明な未来、さらには悲観的論調によって多くの人達が不安を抱え、明るい未来の姿を見失っているように感じています。私たちJAYCEEは、地域におけるこれらの諸問題と向き合い、明るい豊かな社会の実現と、将来を担う子供たちが夢や希望を持つことのできる未来の実現のために率先して行動していかなければなりません。年齢や職業、社会的立場の異なる会員が手を取り合い、それぞれが持っている知識や情報を共有し、未知の可能性と新たな価値の創造に向かって果敢に挑戦し続けることが、青年である私たちの強みであり、使命であると考えます。

まちづくり

政府は、団塊ジュニア世代が高齢者に突入する2040年の展望を見据えた構造的な改革を進めており、現役世代の急減や地方間格差の拡大、標準的な人生設計モデルの消滅など、いわゆる「2040年問題」が議論されています。これらの多元的な問題を抱える中、特に天草地域においては人口減少が顕著であり、直近20年間で年間約1,000人超の人口が減少し続けています。私たち天草本渡青年会議所は、この人口問題を喫緊の課題であると位置づけ、その対策として2013年の創立50周年を起点とした10年間の運動指針「人口革明」を打ち出し、以降この中長期ビジョンに基づいた運動を展開してきました。その間、あらゆる可能性を模索しながら、対内外で議論や検討を重ね、一昨年「天草の海の更なるブランド化」を人口革明の具体的な方針として決定しました。「天草の海」と言えば、豊富な海産物をはじめ、レジャーやアクティビティなど、島民・市民に限らず天草を少しでも認知している人であれば誰もが共通して連想できるような魅力や資源を多く有しています。しかし一方で、漁獲量の減少やイルカの減少、海洋プラスチックゴミ、漂着ゴミ問題などが指摘され、「天草の海」というブランドの持続可能性については疑問視されています。これらの問題は共通して環境問題に起因する割合を占めていることから、環境問題の解決に寄与していくことが、既成価値の向上と持続可能な天草の海の実現、つまりは「天草の海の更なるブランド化」に繋がると定義しました。その初期段階の取り組みとして、昨年度は天草の海の現状把握と環境問題の抽出、市民への啓発を目的とした事業を実施しました。そして今年度は、海の環境問題について更に掘り下げた調査やヒアリングを行い、現状の問題の中から優先的に何を解決すべきか、どのように解決すべきかを検討し、市民や行政と連携・協働しながら海の環境問題について広く問題提起を図り、持続可能な天草の海の実現に向けた事業を行っていきます。今ある資源や環境を、子や孫、その先の世代まで永続的なものとしてより良く未来に繋げ、残していくことは、現代を生き、その恩恵を享受している全ての人々の責務であり、責任世代である私たちは、その中でも大きな役割を果たさなければならないのです。

ひとづくり

近年、ICTやAIなどのテクノロジーの分野は急激な速度で進歩を遂げており、これらの技術革新によって、グローバル化が進み、教育やビジネス、生活様式などが様変わりし、社会の仕組みが加速度的に作り変えられていくと言われています。つまりは、これまでの既成概念や既成価値が急速に変化していくということです。こうした激動の時代に生きる我々や、地域社会の未来を担っていく子供たちに必要なのは、既存の概念や方法、常識に捉われない視点と発想で、新しい価値を生み出すことのできる「創造力」であると考えます。「答えのない時代」と言われている現代においては、答えを探すのではなく、自らが答えを創り出していかなければなりません。すなわち新たな価値を生み出す「創造力」が求められているのです。創造力を前述したような「新しい価値を生み出す力」と定義した場合、その涵養に最も重要だと思うのは「多様性への理解」、「物事を多面的に捉えることのできる視点」、「考える力」を養うことです。多様な属性や思考、価値観があることを理解し、多面的な視点から物事や問題を捉え、あらゆる可能性に思考を巡らす力の涵養が「創造力」には不可欠であると考えます。そして、新たな価値を生み出す「創造力」が、現代社会を生きる力と地域課題を解決する力となり、地域の明るい未来への礎となると信じています。「まちづくり」は「ひとづくり」から始まると言われます。青年会議所の青少年健全育成事業は、子供だけでなく、我々大人も共に成長することができる「ひとづくり」の事業なのです。

地域交流と広報

多様化・複雑化している様々な地域課題は、個別主体で解決できるほど単純ではありません。行政や企業、各種関係諸団体、市民など、その地域に住む人々が地域課題と向き合い、それぞれのノウハウや衆知を持ち寄り、協働することで成し得ます。そのためには、まず私たちが誰よりも危機感を持って、先頭に立って行動を起こし、その運動を広く地域に発信しながら、多くの人々を巻き込むための取り組みが必要になってきます。日本で一般的に「広報」と同義で使用される「PR」という言葉は「PublicRelations(パブリックリレーションズ)」の略語で、「組織とその組織を取り巻く個人や集団、社会との望ましい関係をつくり出すための行動」という意味があります。つまり「広報」とは単に自分たちの存在や活動を知ってもらうだけの一方的な発信ではなく、それによって他団体や地域住民とのパートナーシップを築き、理解や協力を得るための活動です。青年会議所は「市民の意識を変革する団体」です。私たちは、地域の自主性・自立性を高め、共に明るい未来を創造していくために、様々な媒体やツールを活用して情報発信を行い、事業を通して積極的に地域との交流を図りながら地域から共感と協働を得られる運動を展開していきます。青年会議所は、地域のあらゆる資源を有機的に結び付ける原動力として、恒久的に地域から必要とされる団体でなければならないのです。

SDGs(持続可能な開発目標)の推進

SDGsとは、「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略称で、2015年の国連サミットで採択された2016年から2030年までの達成を掲げた国際目標です。この国際目標は、17の大きな目標と、それらを達成するための具体的な169のターゲットで構成されており、現在日本でも積極的に取り組まれ、中でも青年会議所は日本で最もSDGsに取り組む団体を目指しています。国際目標と聞くと、あまり身近に感じることができませんが、私たちが普段の生活の中で既に行っていることや、ほんの少し意識をすることで、家庭や職場ですぐに実践できるものも数多くあります。環境問題を語る際に良く使われる言葉で「Think Globally、Act Locally(地球規模で考え、足元から行動しよう)」という標語があります。この言葉は全ての課題解決に共通しており、物事や問題を大局的に捉えることで、当事者意識や問題意識が芽生えてきます。そして、まずは家庭や地域といった自分の身近なフィールドからできることに取り組み、その運動を広め、それぞれの小さな取り組みの積み重ねが、誰もが安心して暮らせる、誰一人取り残さない持続可能な社会の実現に繋がると考えています。青年会議所は、地域の明るい未来を創造するためにSDGsを推進し、地域と共に取り組んで行きます。

組織運営と会員拡大

青年会議所活動の中で、度々「楽しさ」を求める場面があります。では、青年会議所に限らず組織活動における「楽しさ」とは何でしょうか。それは、単に仲の良い者同士が集まり、和気藹々とした雰囲気で、何物にも縛られず自由闊達に活動することではないはずです。組織の規律を遵守し、それぞれの立場や役割に対して真摯に取り組み、青年会議所の三信条である「修練」「奉仕」「友情」を通して得られる様々な機会(Opportunity)が青年会議所の魅力であり、「楽しさ」であると考えます。青年会議所は、個人の開発と社会開発を目的として、個人の自由な自発的な意志により加入した会員で構成されています。裏を返せば、誰かから強要され、仕方なく入会し活動を行っている会員は誰一人としていないということです。家庭や仕事の状況などそれぞれが置かれている環境に違いはありますが、自身が置かれている環境の中で、いつもの自分よりも少しだけ背伸びをして、家族や会社との折り合いをつけながら青年会議所活動に積極的に参加し、多くの会員が「楽しさ」を体現することで、組織としての求心力が高まり、魅力のある組織になると考えています。また、その求心力は内部だけでなく、地域へと拡がり、新たな仲間との出会いにも繋がるはずです。人と人が繋がり、人が集い、人を惹きつける、魅力のある組織創りのため、持続可能な組織運営と会員拡大を行っていきます。

むすびに

天草本渡青年会議所は、1963年(昭和38年)5月、全国で239番目の青年会議所として誕生しました。その間、「昭和」から「平成」、「令和」へと時代が移り変わっていく中で、地域社会の変容に伴い、時代が求める変化に応じた運動を展開し、地域と共に歩み、地域と共に在り続けて来ました。創設から57年、時代は流れ、今では青年会議所以外にも多様な団体やコミュニティが地域の中に存在し、それぞれの分野に特化した活動によって地域経済や教育、福祉などの発展に寄与しています。「青年会議所もある時代」と言われて久しい現在においては、これまで以上に青年会議所の特性を活かしながら、多様なセクターや地域住民と領域を超えて繋がり、地域課題解決のために協働し、共に地域を創る「共創」の社会を目指した運動が必要であると考えています。私たち青年会議所の特性を活かした運動とは何なのか。それは、過去にあった事例の模倣や踏襲、結果が見えているような予定調和な事業を展開することではないと考えます。常に変化を求め、若さが持つ可能性を充分に活かした青年らしく壮快で、失敗を恐れない未知への挑戦こそが「青年会議所らしさ」であり、青年会議所の特性であると考えます。常に結果や成果が出るとは限りません。しかし、例えその挑戦に結果や成果が伴わなかったとしても、その挑戦から得られる経験や学びは、必ず自身を成長させ、次なる成果への布石となり、地域社会を変える力となるはずです。「こうなればいい」と、ただ願うだけでは決して現状を変えることはできません。世の中の成り行きに身を任せるのではなく、未来への期待を強くもち、共に手を取り合い、共に地域の明るい未来を創造していきましょう。


年間方針

基本方針

  1. 持続可能な天草の実現に向けたまちづくりの実施
  2. 地域課題を解決する人材の育成
  3. 地域とのより良いパートナーシップの構築
  4. SDGsの推進
  5. ビジネスの機会の推進

運営方針

  1. 短時間で効率性の高い会議の運営
  2. 協働による事業の実施
  3. 未来を見据えた持続可能な組織運営と会員拡大